オフィス鴻

令和5年度東大祝辞(要約3)

2023年04月15日

つぎに「経験」について話をします。貧困や感染症、気候変動のような世界の問題に立ち向かう仕事は問題が無茶苦茶に複雑なのですが、私が「世界は変えられるんだ」と希望を持てたのは、西アフリカのエボラ出血熱緊急対策の仕事でした。

そこで2つの難題に直面しました。一つ目は時間です。感染症対策はスピードが命です。二つ目は世界銀行の資金200億円を得るには、通常プロセスでは1年半かかります。そこで、経営コンサルティング会社で身に着けたオペレーション改革のノウハウを総動員して、45日で完了させました。さらなる難題は、死者埋葬による感染拡大でした。この医学的な解と社会的な解との折り合いは、文化人類学者と現地の宗教リーダー、コミュニティリーダー、感染症対策の専門家と共同で、人々が尊厳ある死を迎えられるという「安全な尊厳ある埋葬」というやり方の開発でした。

皆さんはこれからいろいろな学問や仕事で身に着けた力、「経験」を組合わせて問題解決に挑むのです。民間と公共、医療と文化、社会の壁など「越境」した経験を持ち問題解決する力は、問題の複雑化が進むこれからの世界では本当に重要です。一つの分野で世界のナンバーワンになることはとても難しいですが、いくつかの重要分野の経験やスキルを、自分だけにユニークな組合せとして持ち、それらを掛け算して問題解決に使えるのは自分だけという「オンリーワン」になることができます。