オフィス鴻

「戦わずして勝つ」こと

2023年07月08日

第二次世界大戦末期に、小笠原硫黄島で日米の島嶼激戦があったことは、映画等でご存知の方も多いでしょう。日本軍リーダーの栗林忠道中将は、米軍が5日間での陥落予定に40日もの日数を要し、日本軍より多数の死傷者を出す結果となりました。当然、日本本土から1千km以上離れた絶海の孤島に渡った兵士たちは、水も食料もない島で、圧倒的兵力の米軍に勝てる見込みはおろか、生きて帰ることさえ困難なことを体感として理解していたと思われます。

そのような過酷な状況下、陥落するまでの8か月間、栗林中将は自分自身を含めた幹部将校と一兵士と同じ食事を摂りながら、1日でも長く生きることと自決禁止を厳命したそうです。これは、微かでも和平交渉開始への期待を持ち「勝つこと」より「負けないこと」組織とすることで、兵士には一日でも長く戦い、命を繋げさせる行動を求めるなど、兵士の心をしっかりと掴んでいたのでしょう。現代経営でも、未知の領域に対する大局観(答えの出ない哲学的課題)を持って負けないように我慢する状況は、目先の成功よりも、会社の存続、従業員を守るための重要な選択肢となり得ること示唆しているようです。

また、表題は「孫氏の兵法」から抜粋した言葉ですが、現実問題として戦えば双方とも無傷ではいられませんし、相手からの遺恨もかうことでしょう。もし、戦う前に相手の闘争に対する意思の有無がわかれば、余力を持った優位な状態で未然に戦いの芽を摘み、交渉術などで戦いの回避が出来るかもしれません。ビジネスでも競合が「勝負しても勝てないな」と思うだけの実力・体力差があれば、相手が自然と撤退していく可能性があり、双方ともに無駄な疲弊(複数回のコンペ、値下げ、交渉長期化など)は避けらるでしょう。それでも競争となれば、長期的戦略を基に勝負する時期がくるまでに不測の事態への備えや、相手以上に勝つ力を蓄えておくべきだと考えます。