オフィス鴻

現代のストライキ事情

2024年05月17日

アメリカの自動車産業ではUAW (全米自動車労組)が、企業側の得た利益が十分に従業員に還元されていないとして、大幅な賃上げと労働条件改善を要求して大規模なストライキを決行しました。労働争議の背景には大幅なインフレと、EV自動車へのシフトが進む中での雇用構造の変化を危惧したとされています。また、イギリスでも鉄道運転士労組のストライキ決行により多くの代替交通機関が大混乱を来し、さらに医療関係者のストライキも重なりました。ともに、インフレ下での実質賃金低下と労働条件改善を求めています。そのほかにも、ドイツでの交通機関、アメリカの映画俳優組合、日本の西武百貨店でも百貨店では約60年ぶりとなるストライキが行われました。

ストライキは労働者に認められた権利ですが、その影響は交通・物流・企業収益など社会生活に多岐に影響しますから、労働組合としても余り望んだ選択肢ではないように思います。それでも決行するのは、今後AI進化等により雇用環境の激変が想定されること、一部の経営者等に富の集中が起こっていることがジニ係数等で明らかになっていること、そして移民政策の進んだ国では移民との間で仕事の奪い合いが起こり始めていること、年金支給開始年齢の引き上げなど、それぞれの国家に特有の複合的な要因が絡み合っているのだと考えています。

AI技術は、既に元の状態には戻れない不可逆的段階までイノベーションが進んでいますので、今後は労働者側の所持スキルに対する新たな労働市場への移行がカギを握るように思えますが、リスキリングに代表される労働力移動により現在より生活水準が下がるのであれば、労使間のギャップを埋めることは簡単ではないでしょう。日本でも、現在50歳代の労働者の多くは概ね70歳までの住宅ローン返済、子供の学費、加齢に伴う医療費、物価上昇などに見舞われ、黒字企業の早期退職制度実施も盛んに行われています。その次の世代は就職氷河期世代ですから、更に厳しい現実に直面していく可能性が高いとも言えそうです。