オフィス鴻

雇用保険の使途

2023年07月28日

失業給付の本来の主旨は、万が一の失業に備えて働く人が雇用保険料を支払い、新たな就業までの一定期間の金銭給付を目的としたものです。コロナ以前は潤沢だった財政ですが、2022年から3回の保険料率引き上げが行われたにもかかわらず、コロナ禍により事実上の所得補てんとなった雇用調整助成金の支給により、破綻する可能性も現実味を帯びてきました。岸田内閣が掲げる「異次元の少子化対策」として目を付けたのが、国民からの反発が予想される増税ではなく、雇用保険財政を育休時賃金の補償、年収の壁対策の助成金、労働力流動化対策(自己都合退職時の給付金拡充)として流用するという、本来の負担と受益の原則という雇用保険制度の主旨にそぐわないものも含まれています。一方で、退職金・通勤交通費・社宅費などの税率見直しが進められているようです。

日本経済新聞の記事によれば、コロナ禍以前は失業に伴う雇用保険給付は財政の概ね半分程度で推移してきており、このまま流用の拡大が続けば2023年度の失業給付関連財源が5千億円程度とコロナ禍前の1/8程度まで減少しており、流用分の財源が枯渇する可能性があることを指摘しています。特に「年収の壁」問題対策として、社会保険料適用納付者層(月収8万8千円以上、標準報酬)を拡げる代わりに、企業に1人当たり最大50万円を最大3年間助成する方向で検討されていますが、財源が雇用保険財政であることについての政府の説明内容は明確ではありません。

政府が「時代が変わった」と言いながら、不公平感の強い第3号被保険者制度の改定・廃止に踏み込めないでいるように見えます。例えば社会保険料徴収基準となっている標準報酬を老齢基礎年金(満額支給で月額6万6千円)ベースに置きなおす(企業負担増は、法人税との抱き合わせ)、第3号分として支給されている年金額を見直すことなども選択肢に含れば、わざわざ雇用保険制度から流用する理由(財源問題)も無くなると考えます。