オフィス鴻

Nobless Oblige

2023年01月15日

1997年(平成9)年、「社会勉強のために、一人で飲みに行ける正統派のBARを紹介してほしい」という若輩者の我儘に、元JALキャンペーンガール兼歌手の方に紹介していただいた、その後の自分の人生に多大な影響を与えた唯一無二のBARがあります。当時勤めていた青山の商社からほど近い場所にある赤坂・一ツ木通り沿いの地下へと続く階段を下りていくと、店内から確認できるカメラと感知装置、そしてたくさんのかすみそうと「会員制」の看板、重厚な扉がお出迎えしてくれました。L字型のカウンターの奥から2番目の席(写真のかすみそうの左手)には「Nobless Oblige~位高ければ、努め多し~」という開高健さんの言葉が刻まれた年季の入ったプレートがはめ込んであり、常連さんは開高さんお気に入りのドライマティーニを嗜んだりして楽しい時間を過ごされていました。

お客さまも外交官、舞台演出家、弁護士、放送業界、経営者、開高氏関係の方々などが多く、ご主人は折に触れ若輩者の自分をさりげなく紹介してくださり、異世界の方々、諸先輩方から受けた多くの刺激は、その後の自分の人生においてかけがえのない財産となっています。また、お店にはメニューの類は一切なく、まず一杯目は山崎のシェリー樽仕込みをご主人と二人ストレートで頂き、つぎは響のロックかドライマティーニ、「ここは食事をする店ではない」と言いつつパニーニやドライ無花果などを出してくださいまいした。

その後、体調を崩されたご主人のお見舞いにお伺いした際、18世紀頃の世界地図をお渡しすると「今までで一番気が利いているお見舞いだ」と嬉しそうに、そして褒めていただきました。後日談ではありますが、ご主人は紹介してくださった方に「自分自身の力で精一杯背伸びさせるように。それが後々本人の力になるのだから。」と伝えていたそうで、本当の子供のようにかわいがっていただきました。今では、仕事の延長線上でも、このような機会がめっきり少なくなったように感じます。

自分も鬼籍へと近づいてきましたが、「Nobless Oblige~位高ければ、努め多し~」の言葉を常に胸に、可能な範囲で多くの人々に感謝しながら日々過ごしています。再び、立派なかすみそうの飾られている階段を一歩一歩踏みしめながらお店に入る日がくることを楽しみに、開高先生のお隣にいるご主人(モノクロ写真が一番のお気に入り)にご挨拶したのち、献杯して、改めてお店に感謝の意をお伝えいたしたいと思っています。