オフィス鴻

運送事業者の負のジレンマ

2024年01月14日

本来はドライバーの長時間労働を是正し健康と安全を守るための「運送2024年問題」のはずが、貨物(物流)滞留問題(物流クライシス)が話題の中心となり、運送事業者の廃業・倒産・撤退などに加え、燃料高等により繁閑差と車検・修理等のバッファーとして機能していた年式の古い休眠(非稼働)車両維持費用などの負担が、ドライバーの職場自体を減少させている実態があります。また、物流二法施行による過当競争で収益性悪化が顕著な事業者では深刻な後継者不足も指摘されています。帝国データバンク等の資料では、これまで運送事業者の倒産は年間300社前後で推移しており、運送事業者数(約6万社)だけでみると1%に満たない水準ですが、従来に比べて新規参入は減少して既に事業者数では縮小傾向に入っています。

また小売店の店頭に並ぶ食品や一般消費財は原材料費の高騰・物流費増加などの理由で数度の値上げ実施で多くの企業で収益改善が進んでいます。運送事業者への価格転嫁状況(値上げ)は宅配便(BtoC)を除くと,運送事業者が実際におかれている経営状況を直接消費者が知ることはまずありません。サプライチェーンで一番脆弱な物流業界では、荷主の立場が圧倒的に強く取引縮小・停止の替わりに料金値下げを受け入れてきたことは、国土交通省が200名の物流Gメン部隊を新規に配置したことでも明らかです。つまり、荷主側の物流担当者が運送事業者を訪れて本気で実情を把握するケースは極めて稀で、予算縛りや机上の空論に近い程度の知識しかないのが実態でしょう。

今後も日本経済が大きく上向かない限り、燃料や車両価格、会社負担の社会保険料上昇を補え、かつドライバーの処遇改善に廻す原資となるレベルの料金値上げを実現するのは難しいでしょう。この運送事業者が抱える負のジレンマから抜け出すには、物流(運送)業界に対する負のイメージ払拭と荷主と対等に交渉できる経営能力を有した高度人材確保が急務と思われます。