オフィス鴻

改正不正競争防止法

2024年07月11日

回転ずしチェーンのかっぱ寿司運営会社の元社長が、競合先となる在籍企業の営業機密とされる情報を持ち出した情報漏洩事件で逮捕されました。今年4月から改正不正競争防止法が施行されましたが、対象となる企業内情報には秘密事項としての管理がされている、有用な技術・営業情報である、公然の事実でないとの3要件が必要となります。これまでとの大きな違いとして訴訟を起こした原告側が立証責任を負うことが軽減されたことにあります。他法令等でも原告側の立証責任が必要とされる訴訟案件は多く、今回の改定で被告側にも立証責任の一部が課された点にあります。

また、労働市場流動性の高まりやリモート勤務などで元従業員(退職者)による同業他社(転職先)への秘密情報漏洩は増加するリスクは当然ながら高くなります。その理由として同業他社情報を取得・活用することが暗黙のうちに転職者の新たな勤務先での業績・評価に結び付くからだと考えています。過去の判例でも、入退職時誓約書に競合避止義務が記載されて同意していたとしても規定・誓約書自体の内容・評価および当該競業避止義務契約の有効性を判断する要件が考慮されています。もちろん余程特殊なケース(取締役等の経営幹部等)ではない限り、使用人(使用人兼務役員も一部含む)の職業選択の自由は憲法第22条第1項「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」によって保証されています。

したがって、入社時に取り交わす誓約書、就業規則競業禁止特約に違背したとして、義務違反への罰則として、退職金支給制限、損害賠償請求、競業行為の差止めなどを企業側が行うにしても、合理性・有効期間・範囲・代償措置などを考慮した上で判決が下ります。つまり、行き過ぎた競合避止義務は職業選択の自由を過剰に制限することになりかねない諸刃の剣のような存在かも知れません。さらに競合会社への転職事例では前職企業への不満(処遇、コンプライアンス違反など)から起こり得るケースが多いわけですから、退職後も良い関係が続けられるような経営方針が最大の自衛策だと思われます。