オフィス鴻

競合避止契約と転職

2024年12月04日

編集人は企業内でも企業秘密(一般的に「職業上の秘密」とよばれるもの)に最も接しやすい経営企画部門に長く在籍してきたこともあり、ヘッドハンターのお誘いにも転職に際して同業他社へ前職の企業秘密を持ち出すことは株式投資を含めて強く戒めていました。そのため、転職先でも企画部門でも新規事業やITによる業務効率化、トップの特命事項といった職務が殆どで、その都度新たな学習と知見を高めることに時間を使っていました。一般的に勤務先を退職するにあたっては人事部等から就業規則に定められている競合避止契約について、合意書・誓約書に署名することを求められますが、職業選択の自由を理由に署名を拒む従業員がいることも事実です。同業他社は即戦力として最終的に再現性の高い実績を挙げることを転職者に望むことが殆どであり、例外的に歪になった年齢構成等をなだらかに修正していくために未経験者を含めて若手の採用を増やす傾向も強くなりました。

実際に問題となるケースは、民法で定められた「(労働)契約内容の自由」を法的根拠としてその対象範囲の妥当性、転職までの期間、前職企業に与える損害等が裁判での判例で個別に判断されます。また、違反者への賠償請求・退職金等の減額などについても、退職前に社内資料をデータやコピーで持ち出したりした事実があれば企業側の正当性が容認される判例も存在します。最近は技術革新・ビジネスノウハウも非常に速いため、概ね1年の同業他社への転職禁止が主流となっているようです。もちろん、肩書・役職以外にも先述のように企業秘密に触れる機会の有無も大切な判断材料であり、双方が歩み寄らなければ上級審での審理を仰ぐケースもあります。

ただし、明確な悪意を持った企業内情報の流出がなければ競業避止義務違反に問われることは滅多にありませんが、個人の頭の中にあるアイデアやノウハウまで管理することは事実上不可能です。少なくとも転職者が一定期間お世話になった企業に反旗を翻した原因こそが、当該企業の課題だと思います。