賃上げの普及スピード
2025年02月12日
上場企業経営者にとって悩ましい問題として、ステークホルダーとの利害関係調整があります。敵対的買収や株主提案での否決を恐れて、1株当たりの価値を上げるために「自社株消却」や「増配」を行う企業が多くあり、外的圧力(主に株主)の強さに応じて施策を講じていたとも言えます。実際に日本企業の内部留保は600兆円とも試算されており、特に大企業では物価上昇率を超える賃上げに踏み切った企業がある一方で、二次請け・三次請け企業にはその恩恵は殆ど及んでいないのが実態のようです。その根拠として経済産業省の「企業活動基本調査(2023年度速報版)」では、調査対象となる3万社では経常利益が前年度比14%増加していますが、労働分配率は0.3%減少しています。また、厚生労働省の「産業別労働分配率の推移」では運輸・郵便、卸売・小売、サービス業などの人手不足が顕著なエッセンシャル業界で大幅に上昇していることが示されています。
実際に長期間に及んだデフレ経済下では日本企業はコスト削減等で利益を確保していましたが、まずは企業を支配するヒエラルキーのトップにある株主への増配・株価上昇策が先で労働組合がある企業でも実質賃金は減少していたことになります。最近の外資系機関投資会社が人的資本経営により従業員の賃金上昇を求めるようになりましたが、恐らく生産性向上やDX推進による利益増加を前提としたものだと思われます。言い換えれば、経営改善の裏には雇用を維持しながらも、その人的価値(企業への利益貢献度)に応じて賃金を決めることで、結果的に従業員の一部は所得が大きく増えますが、それ以外の従業員への配分は抑制しているとも考えられます。
その他にも、一度上げた基本給を下げることは容易ではありませんし、優秀な従業員程条件の良い企業に転職することが可能です。さらに社会保険料や消費税が下がることは現時点では想定しずらいので単に労働分配率だけ見て判断するのは全体俯瞰性に乏しいと考えています。