オフィス鴻

日産の下請法違反事案

2024年07月12日

公正取引委員会が今年3月、日産自動車が下請け企業に約30億円の不当減額(割戻金)していたとして、再発防止策を求める勧告を出しました。今回の事案は、下請法に関する調査がきっかけで判明したようですが、長年にわたって調達担当が原価を低減するために続けてきたことに大きな問題があると思われます。自動車製造業においては、本件と類似の違反行為がマツダや部品メーカーなどで生じており、自動車業界団体への周知等を通じた啓発活動を行っていくこととして公正取引委員会が下請法に基づく勧告を行っています。下請法(下請法第4条第1項第3号)では、「割戻金」、「原価低減協力」、「値引き」、「協賛」、「歩引き」等の名目・方法・金額の多寡を問わず、下請事業者との合意があっても、親事業者が下請事業者の責めに帰すべき理由なく下請代金の額を減ずることは下請代金の減額の禁止に該当するとして下請法違反となることが定められています。

今回の違反摘発の背景には、政府が大企業だけでなく下請事業者の賃上げを推進するためには、生産性向上や付加価値創造による価格転嫁が不可欠であると考えていることが読み取れます。編集人の専門分野である中間流通(≒SCM)でも、頂点にあるサプライヤーが賃上げを含むこれからの日本経済をけん引する旗振り役とならない限り、結局は下請け業者の賃上原資が確保できないことが最終的にサプライチェーンの弱い点(例えば運送ドライバー不足など)にしわ寄せが来るであろうと容易に想像できます。

これまで賃上げ交渉と言えば労働組合主体の春闘が中心で、組合貴族(執行部が高い報酬を受け取る)や御用組合(経営との慣れあい)と呼ばれるような形式上の交渉を行う役割が中心でした。最近の調査では日本の労組組織率は過去最低水準の15%前後で、これからは人的資本経営の軸となるキャリア形成支援、職場環境整備など従業員が会社の戦略性を理解することで双方にプラスとなるといった、本当の意味での経営との懸け橋役を担う役割が重要視されてくるだろうと考えています。