オフィス鴻

未払賃金と先取特権

2024年08月28日

西日本新聞の記事に、未払い賃金回収のために勤務先の財産差し押さえ手続きの1つとして「先取特権」という優先弁済を可能にする仕組みが掲載されていました。具体的には、企業側が業績不振を理由として業務委託契約への切替、または自己都合退職・解雇すると従業員に一方的に通知していた事例でした。裁判所への訴訟手続きで重要となるのは、雇用契約・給料・勤務時間(雇用契約書)、出勤記録、給料明細、未払いの事実を証する通帳等で、このケースではそれらが揃っていたことから、裁判所が不当解雇と認定して約2週間で先取特権を認められたとありました。

あくまで一般論として、債権の差押えは税金・社会保険料、労働債権が優先されることは知っていましたが、今までの社会人生活の中で労働審判やあっせん等は経験があったものの、この先取特権は行ったこと(行われたこと)は経験したことがありませんでした。弁護士に依頼すれば相応の費用が発生するだけでなく、上記の証拠を残しておけたケースは非常に稀だとも言います。最近は、労働法知識の少ない従業員(定年後・IT系業務等)に業務委託契約への切替を持ちかけてくる企業が増えていると言い、その理由は社会保険料の会社負担分の節約、業務量が減少した場合等に契約期間満了後に再更新をしないことで固定人件費抑制を図ると言った内容です。身近な例では、UberEats社やAmazon社が荷物の配達に特殊なアルゴリズムを使い、実質的に労働者(雇用契約)と同じ指揮命令系統下で業務委託させる等が挙げられています。

日本の労働法では整理解雇の4要件(経営不振や事業縮小など、使用者側の事情による人員削減のための解雇)が厳しく定められており、これを行うためには原則として、過去の労働判例(法理)から「人員整理の必要性 」「解雇回避努力義務の履行」「被解雇者選定の合理性」「解雇手続の妥当性」を充たす必要があります。つまり、労働者保護が優先されるのですが現在は金銭補償解決の導入が検討されています。