医療理念と働き方改革
2023年10月24日
厚生労働省の資料では、医師国家試験合格者数は毎年概ね9千人程度で推移しており、廃業などのマイナス数を差し引くと年間3~4千人の増加傾向にあるそうです。これを経済合理性の観点から見ると、日本国内では2032年頃から高齢患者の減少と需給関係の均衡が始まり、2040年頃には高齢者人口及び入院患者数がピークとなると予測されています。また、AI診療、リモート手術など医療技術の進歩に伴い、医師育成教育、診療報酬改定、総医療費削減などが協議されることでしょう。ただ、医療をマーケットとして俯瞰してみると、2004年に施行された医師臨床研修制度施行の改善点(地域的な偏在傾向(都心部に集中)、外科医・産婦人科医など特定診療科希望の減少)も指摘され、2018年の医師臨床研修部会報告書で見直し案が確定しています。
また、厚生労働省医政局医事課が作成した医師臨床研修推進室医師臨床研修指導ガイドライン(2020年版)では、「医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム) 」「資質・能力 」「基本的診療業務」の3点を軸に、かなり詳細な部分まで踏み込んだ見解が示されています。例えば、外科や小児科、産婦人科、精神科を含む複数の診療科をローテートする必要性を訴え、今回の見直しでは内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療を必修分野として位置づけらたことです。また、多くの疾病のマネジメントが入院医療から外来医療に移行しつつあること、地域包括ケアをはじめとする医療提供体制の変化が起こりつつあること、また診断のついていない患者での臨床推論を的確に行う能力の重要性が高まってきていることなどから、医師の外来診療能力を一層高めるために一般外来における研修も必修項目となりました。
研修医の労働環境の劣悪さ(相応の収入が得られない、長時間労働など)は課題ですが、基本理念のキーワードは医師としての「人格のかん養」、「社会的役割の認識」、「基本的な診療能力」とあり、そこに適切な労働条件が加われば、世間の感覚に少しだけ近づいた答申になったと感じます。