オフィス鴻

労働生産性とこれからの社会保障

2023年05月17日

日本では、1960年代に安価な自動織機・農業機器導入による生産性向上と、都市部での賃金上昇とを同時に実現した「ルイスの転換点」と呼ばれる時期がありました。これを令和時代に重ね合わせると、サービス産業(卸・小売り・不動産・運送など)の生産性は、アメリカに比べて1/3程度と著しく低いという研究結果があります。一方で、労働生産性の観点では製品の品質・生産性向上が進む中で価格競争に陥った結果、利益を労働者に還元できない企業が多かったということになるのでしょう。

ただし、為替要因(円安による交易条件)、社会保険料の負担増加、日用品価格の値上げも顕著であり、国内物価上昇(インフレ)が政府主導の労働分配率・最低賃金上昇と相殺されたり、時間外勤務減少で実質賃金が下がる状況も生まれました。そこには、高齢者、女性、就職氷河期世代を中心にした非正規雇用者の構成割合増加だけでなく、年金制度変更、定年延長(再雇用制度、70歳雇用努力目標等)、新生活スタイル(派遣社員として企業に束縛されない生き方など)を人々が求め始めたことにも大きな要因がありそうですね。

今後、労働市場に於いて自らの提供価値を高め、それに見合った報酬を貰うことも大切ですが、今は国の政策をベースとした労働者の処遇改善策の立案・実行が可能なチャンス(過渡期)だと思っています。つまり、小規模事業者でも使える低価格で使い易い汎用デジタルとAI技術を組み合わせた高利益の製品開発・普及が、生産性向上と賃金上昇を後押しすると感じています。また、勤労・納税・教育の公平性の原則から、本当の生活困窮者(働くシングルに対する子育て環境改善、ヤングケアラー、高齢者介護離職など)には金銭面以外でも、もっと手厚い行政支援を必要に応じて受けられるような制度を充実させて欲しいものです。