オフィス鴻

チョウザメ養殖の失敗

2024年07月04日

今年2月、中山間地にある閉校した小中学校の校舎と豊富な天然自然水(湧き水)を活用して商用化に向けた研究・開発が進められていた、長野県長和町にあるチョウザメ(キャビア)養殖・燻製の製造などを手がけていた新興企業が事業停止(倒産)したと帝国データバンク長野支店が報じました。長和町は国内有数の黒曜(こくよう)石産地として知られ、特殊な岩盤を通して湧き出る「黒曜の水」を使うことで、一般的に流通するカスピ海沿岸・ロシア産(ベルーガ等)に比べて純度の高い水で仕込んだキャビアは臭みや癖が少なく「黒耀キャビア」として高値で取引されていたと言いますが、コロナ禍による販売減少と在庫不足等から事業継続を断念したとありました。

同様の例では、海なし県の栃木で海水の代わりに塩分を含む温泉水と特殊な人工飼料を使用した無毒性のトラフグの養殖技術が生まれており、北海道から九州まで約20ヶ所で養殖事業が行われていると言います。また、近畿大学が和歌山県東牟婁郡串本町で2004年頃からクロマグロの稚魚を使った完全養殖に成功して大きな話題となりましたが、実際に市場で人気が高いのは「天然種苗」と呼ばれる天然の幼魚を捕まえてきて育てる養殖マグロで全出荷量の約9割を占めており、「人口種苗」と呼ばれる完全養殖クロマグロの引き合いは弱いのが実情だと言います。

SDGs(持続可能な開発目標)、サステナビリティ、ネイチャーポジティブ(生態系回復)などの観点では、人工種苗の幼魚を使えば天然の成魚や幼魚に依存せずに養殖ができる非常に有意義なスキームなのですが、実際には研究費・設備費・人件費など莫大なコストを販売価格に転嫁してしまえば、高価格になるジレンマから抜け出せないことが商業化への大きな障壁として立ちはだかっているのが実情でしょう。一方で、沖縄のグルクン(大衆魚)が京丹後付近で確認されたり、東京湾に多くのサンゴが生息し始めているなど地球温暖化による海洋生態系の影響も決して無視することはできないと思われます。